人と動物の共通感染症
動物から人へ、人から動物へと病原体が感染すること、またはその感染によっておこる疾病のことを「人畜共通感染症」、「人獣共通感染症」、「ズーノーシス」といいます。中でも、動物から人へ感染する疾病を「動物由来感染症」といいます。世界では約200種類近くの人と動物の共通感染症があるといわれています。
日本では数十から百種類くらいの感染症があるといわれています。ペットショップやブリーダー、動物愛護団体などから猫を迎え入れた方は、人と動物の共通感染症について説明を受けたと思いますが、そうではない方のために、人と動物の共通感染症について、特に猫に関係する感染症をまとめました。
主な人と動物の共通感染症
病名 | 動物の主な症状 | 主な感染経路 | 人の主な症状 |
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狂犬病 | 狂そう又は麻痺、 昏睡して死亡 |
かみ傷 | 発病した場合、 神経症状・昏睡死亡 |
パスツレラ症 | 多くは無症状 | かみ傷・引っかき傷 | 傷口が腫れて痛む |
猫ひっかき病 | 多くは無症状 | かみ傷・引っかき傷 | リンパ節が腫れる |
カプノサイトファーガ カニモルサス感染症 |
多くは無症状 | かみ傷・引っかき傷 | まれに重症化すると 敗血症・髄膜炎 |
リステリア症 | 脳炎、敗血症 | フン中の病原体が口に入る ( 食品等 ) |
脳脊髄炎・敗血症 |
サルモネラ症 | 多くは無症状 | フン中の病原体が口に入る ( 食品等 ) |
胃腸炎( 食中毒 ) |
カンピロバクター症 | 多くは無症状 | フン中の病原体が口に入る ( 食品等 ) |
腸炎( 食中毒 ) |
エルシニア エンテロコリティカ感染症 |
多くは無症状 | フン中の病原体が口に入る ( 食品等 ) |
胃腸炎・下痢 |
仮性結核 | 多くは無症状 | フン中の病原体が口に入る ( 食品等 ) |
胃腸炎・虫垂炎 |
皮膚糸状菌症 | 脱毛、フケ | 濃厚な接触 | 脱毛等の皮膚障害 かゆみを伴う |
トキソプラズマ症 | 猫で肺炎、脳炎 | フン中の病原体が口に入る | 流産又は胎児に先天性障害 |
回虫幼虫移行症 | 食欲不振、下痢、嘔吐 | フン中の病原体が口に入る | 幼児で肝臓、脳、眼等に障害 |
かいせん | 強いかゆみ、脱毛 | 濃厚な接触 | 皮膚の強いかゆみ・脱毛 |
Q熱 | 多くは無症状 | 尿、フン、胎盤等の中の 病原体の吸入 |
インフルエンザの様な症状 |
特に猫に関係する主な感染症
狂犬病 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
狂犬病ウイルス | 全ての哺乳類 (犬、猫、キツネ、コウモリ、アライグマなど) |
狂犬病にかかった動物によるかみ傷等から感染 | 狂躁型・ 凶暴性を示し、見境なくかみつく。 麻痺型・頭、首の筋肉が麻痺する いずれも昏睡して死亡する。 |
人の症状 | 予防法 | ||
潜伏期は咬まれた部位によって 3日から3ヶ月(場合により2年)。 発症すると様々な神経症状が現れ 昏睡に陥り死亡する。 発症した場合、救命手段はなく、 ほぼ100%死亡する。 |
日本においては、昭和32年以降国内での動物における 流行は確認されていない。 外国での発生はいまだに多く、これが日本に持ち込まれ、 国内でまん延することを防ぐため、 犬の登録・狂犬病予防注射は 法律に定められた飼い主の義務です。 (猫は外に出さないこと) |
パスツレラ症 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
パスツレラ・ムルトシダ | 犬、猫 | 犬や猫の口の中や、爪に菌が存在するので、 かみ傷、引っかき傷で起こることがある。 |
まれに気管支炎等を起こすがほとんど無症状。 |
人の症状 | 予防法 | ||
傷口が熱をもち、はれて痛む。 はれが傷口の周囲に広がっていくことはあまりない。 |
犬や猫からかみ傷・引っかき傷を受けないようにする。 犬や猫の爪を切る。 |
猫ひっかき病 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
バルトネラ | 猫(特に子猫) | かみ傷、引っかき傷で起こることがある。 | 無症状である。 |
人の症状 | 予防法 | ||
傷口に近いリンパ節のはれが続き、 まれに化膿するが、ほとんど軽症である。 発熱やだるさ等などの 全身症状があっても軽い場合が多い。 |
猫から、かみ傷・引っかき傷を 受けないようにする。猫の爪を切る。 |
皮膚糸状菌症 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
糸状菌( カビの一種 ) | 犬、猫 | 感染動物との接触や、 家の中のほこりが 原因の場合もある。 |
脱毛したり、表皮がはがれたり 皮膚が厚くなったり等、症状は 多様だが、無症状のことも多い。 |
人の症状 | 予防法 | ||
動物の症状と似て多様だが、 その他、円形・不整形の白っぽい輪が できたり、小さい水泡ができたりして、 かゆみを伴う。 |
感染動物の隔離、治療を行う。 部屋の掃除を念入りに行う。 |
トキソプラズマ症 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
トキソプラズマ原虫 | 猫( 犬や他の動物にも感染するが、人への感染源として重要なものは猫 ) | 感染している猫のフンの中のオーシスト( トキソプラズマ原虫の発育形態 )が口に入る。加熱不完全な感染した豚肉を食べることでも感染。 | 幼若のものに発熱呼吸困難などの症状が出ることが多く、肺炎、脳炎等を起こす。成猫は無症状が多い。 |
人の症状 | 予防法 | ||
妊婦が初感染した場合、流産や胎児の先天性障害( 脳炎、脳水腫、発育障害等 )をまれに起こすことがある。成人では感染しても無症状であることが多い。 | 他の猫と接触させない。生肉を与えない。猫のフンは速やかに始末し、猫には検便・血液検査を行う。豚の生肉を扱ったときには、手や、まな板等の器具をよく洗う。 |
回虫幼虫移行症 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
回虫 | 犬・猫・アライグマ | 犬や猫に多く感染している回虫の成熟卵が口から入ることでおこる。砂場の砂に混入した虫卵が手について感染する例が 多い。 |
無症状であることが多いが、腹部の異常膨大・呼気の特異的甘臭・元気消失・発育不良・貧血・食欲不振・便秘・下痢・腹痛・嘔吐を起こすことがある。 |
人の症状 | 予防法 | ||
内臓移行型では、発熱・肺炎・肝臓の腫れがみられ血液に好酸球(白血球の一種)の増加がみられる。眼内移行型では、視力障害や失明などを起こす。 | 砂場で遊んだ後や動物に触れた後は手を良く洗う。猫には検便を行い回虫がみられた時は駆虫する。 |
Q熱 | |||
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病原体 | 関係する動物 | 感染経路 | 動物の症状 |
コクシエラ菌 | 犬・猫・牛・豚など | 感染動物の羊水・胎盤・糞便・乳汁、また感染動物に寄生したダニの糞から感染する。 | 無症状であることが多い。軽い発熱程度。 |
人の症状 | 予防法 | ||
風邪に似た悪寒を伴う急な発熱・頭痛・倦怠感・関節や筋肉の痛みを起こす。熱は焼く二週間ほど持続する。 | 糞便を衛生的に処理する。動物が流産した場合に不用意に胎盤や胎児に触らない。ダニ予防を徹底する。 |
また病気ではありませんが、ノミ・ダニ・耳ヒセンダニなどに寄生されると、吸血による貧血や皮膚炎を起こします。
猫に寄生するノミ・ダニは、人には寄生しませんが吸血して皮膚炎を起こします。定期的に動物病院で駆虫薬を処方してもらいましょう。
人と動物との共通の感染症には、動物は無症状でも人に感染すると重大な症状を引き起こすものもあります。
人と動物との共通の感染症を予防するためには、猫のケージや食器、トイレなどを定期的に清掃すること
野生動物(野鳥、ねずみなど)や昆虫類(ハエ、ゴキブリ、蚊など)の侵入・接触を防ぎ、駆除すること
口移しで食べ物を与えるなどの過度の接触をしないこと
糞や尿は早めに処理をすること
猫の体や環境を清潔にして、猫の体にふれたり、糞や尿を処理した後は手を良く洗うこと
これらのことを守り、衛生的な飼い方を心がけていれば、必要以上に恐れることはありません。
もしも猫に噛まれたり、ひっかかれたりして傷を負った時は、傷口を流水、石鹸で良く洗ったあと、消毒します。
傷によっては病院を受診する必要もあります。
普段から猫の健康状態に注意して、具合がおかしいと思ったら早めに獣医師に相談してください。
また飼い主さん自身や家族の健康状態にも注意し、異常があれば医師に相談してください。
【猫のチェック項目】
元気・食欲はありますか?
鳴き声や呼吸の状態はいつもと同じですか?
せきやくしゃみをしていませんか?
毛のつやは普段と同じですか?
目やに、耳だれ、鼻水は出ていませんか?
うんちやおしっこに異常はありませんか?
発熱していませんか?
↓↓↓↓↓異常がある場合↓↓↓↓↓
【猫への対処】
健康な他の動物と隔離する必要に合わせて動物病院を受診する
【飼い主さんやご家族の方への対処】
必要に応じて病院を受診し、猫を飼っていることを告げる
【参考文献・ 資料・ ホームページ】
1.動物由来感染症ハンドブック:厚生労働省健康局結核感染症課編、2002
2.厚生労働省
3.厚生労働省検疫所
4.国立感染症研究所感染症情報センター
5.人と動物の共通感染症研究会